質量分析装置Autoflex Speedによるペプチド・マス・フィンガープリンティング(Peptide Mass Fingerprinting; PMF)の一例です。遺伝子実験施設の機材を使って実施してみました。参考になれば幸いです。
実験は概ね3日間かかります。
初日は電気泳動とゲル染色。二日目はゲルからのバンドの切り出しからゲル内酵素消化まで。三日目は酵素消化されたペプチドの脱塩・濃縮と質量分析というスケジュールです。
今回は二日目のバンド切り出しから紹介していきます。
今回は専任教官実験室のフリーザーに眠っていた(期限切れの)BSAを使って、どちらかというとかなりラフに実験しています。このBSAはプロテオミクス用のマーカー試薬ではなく、おそらく過去にサザンハイブリ等のブロッキング試薬として使っていたもので、ずっと忘れられていたものです。果たして無事にBSAと同定できるでしょうか。
ストック調整試薬等
ストック試薬以外の試薬類はすべて要時調整。また、水はすべてミリQ水を用いること(電気泳動も)。
- 1M NH4HCO3(炭酸水素アンモニウム)
- 1M ジチオスレイトール(DTT)
- Trypsinストック溶液
Ammonium Hydrogen Carbonate ナカライテスク 1066-33-7
0.79gのNH4HCO3を10mlのミリQ水に溶かす。
Dithiothreitol ナカライテスク 27565-41-9
154.2mgのを1mlのミリQ水に溶かす。(マイクロチューブごと天秤で秤量し、同じ比率の水を加えれば良い。50μlに分注し冷凍保存)
Promega Sequence Grade Modified Trypsin V511A
添付Buffer200μlでバイアル1本分を溶解。10μlずつに分注し-80℃保存。
器具等
- メス(ディスポーザブル)
- ピンセット
- 手袋(ディスポーザブル)
- 遠心エバポレータ CVE-2000 or VC-96N
- シェーカー Iwaki TWIN3-28N (3階廊下にあります)
- ブロックインキュベーター TEITEC DTU-1B (3階共同利用実験室にあります)
- インキュベーター IC600 or HB-80
- その他、ピペットおよびチビタンなどマイクロチューブ用遠心機
ゲルからの切り出し
- ウシ血清アルブミン(ナカライ, F-V) 5pM を10% SDS-PAGEで分離しCBB染色しておく。
- 66kDa付近のバンドをメスで切り出し、4,5片程度に細切してマイクロチューブに入れる。
メスやピンセットはその都度70%エタノールとキムワイプできれいに拭いて使うこと。場合によってはサンプル(バンド)ごとに交換した方が良いかも。
脱色
- チューブ当り100μlの脱色液を加えシェーカーで10分間振とうする。(この間にブロックインキュベーターを56℃にセット) [脱色液(要事調整)] 100μl 1M NH4HCO3
- 上清を除去。ゲルの色が消えるまでこの操作を繰り返す(2〜3回程度)。
- 上清を除去し、150μlのACNを加えて更に2分間振とう後、上清を除去。
- 遠心エバポレーターで5分間真空乾燥。
1.2ml アセトニトリル(ACN)
2.7ml MiliQ水
還元・アルキル化
- 還元液を100μl加え、56℃で1時間反応させる [還元液(使用直前に混合調整)] 10μl 1M DTT
- 上清を除去する。(チビタン等でFlashして集めて完全に除くこと)
- 洗浄液を100μl加え、シェーカーで10分間振とう。 [洗浄液(使用直前に混合調整 1mlの溶液を3本用意すると良い)] 25μl 1M NH4HCO3
- 上清を除去する。
- アルキル化液を100μl加え、シェーカーで45分間振とう。このとき、シェーカーを丸ごと段ボール箱等で覆って遮光する。場合によってはアルミホイルでシェーカーごと覆ってしまう。 [アルキル化液(使用直前に混合調整)] 0.01g ヨードアセトアミド
- 上清を完全に除去。
- 洗浄液を100μl加え、シェーカーで10分間振とう。
- 上清を完全に除去。
25μl 1M NH4HCO3
965μl ミリQ水
975μl ミリQ水
1ml 洗浄液
ヨードアセトアミドは有毒なため手袋を着用のこと。天秤でチューブに直接秤量し、同じ比率の洗浄液で溶かす。
ゲル内消化
- 脱水液を200μl加え、シェーカーで10分間振とう。 [脱水液(使用直前に混合調整)] 2ml ACN
- 上清を完全に除去。
- 14,15の処理を繰り返す。
- 遠心エバポレーターで15分間真空乾燥。(この間にインキュベーターを37℃にセット)
- Trypsin溶液を20μl加え、氷上で30分間ゲル内に浸透させる [Trypsin溶液(使用直前に混合調整)] 20μl Trypsinストック溶液
- 浸透しなかった余剰なTrypsin溶液を除去する。
- 37℃で一晩インキュベート。(乾燥させないため、タッパー等に濡らしたキムワイプを置き、その上にチューブスタンドを置いてセット。蓋を閉じてタッパーごとインキュベートする。)
100μl 1M NH4HCO3
1.9ml ミリQ水
180μl 50mM NH4HCO3 [50mM NH4HCO3 (氷冷しておく)] 50μl 1M NH4HCO3
950μl ミリQ水
二日目はこれでおしまい。
三日目に続きます。
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